平成19年(2007年)の「殺人、強盗致死(強盗殺人)、傷害致死の認知件数(の合計)とそれによる死亡者数およびそれらの人口10万人あたりの比率」も戦後最低(たぶん)


タイトル長いなー。
いまから半年ほど前、こんなエントリがアップされました。

2/1に警察庁が去年の犯罪統計を発表したんですが、殺人の認知件数は1,199件で平成3年の1,215件を下回って戦後最低を記録しました。

平成19年(2007)の殺人発生数は戦後最低 : 少年犯罪データベースドア


殺人の認知件数が戦後最低であっただけでなく、拙エントリ殺人の認知件数・検挙人員の推移(1926年〜)をご覧いただければ明らかなように、人口10万人あたりの比率*1は昭和元年(1926年)以降で最低を記録しました。すなわちこれは、近代日本が始まって最も低い記録であったとして間違いない。これが喜ばしいことなのかどうかはさておき、(自殺者数や交通事故死亡者数はマスコミによって取り上げられるのだから)十分話題性のある事柄であろうと思いきや、そうでもありませんでした。
猫猫先生曰く

では92年には「殺人件数戦後最低」と報道されたのかと思って調べたら、そうじゃなくて「刑法犯が戦後最多」の記事ばかりであった。要するに殺人の認知件数だけじゃ分からないってことですね。だいたい、この数字は「傷害致死」「強盗致死」は入っていない。

「殺人事件の認知件数が戦後最低であった」ということはあまりニュースバリューがないうえ、「傷害致死」「強盗致死(強盗殺人)」は別計上だからこれだけじゃわからないよ、と。
なるほど。
で、実際に「傷害致死」「強盗致死(強盗殺人)」も加えて統計を取ってみたのがこれです。

昭和2年昭和8年の強盗致死(強盗殺人)、昭和35年昭和39年〜昭和48年および平成4年〜平成8年の傷害致死の認知件数が空欄なのは、ネット上にアップされている警察庁の統計や犯罪白書には見当たらなかったためです*2
ご覧のとおり昭和35年昭和39年〜昭和48年が空欄でも「平成19年の殺人、強盗致死(強盗殺人)、傷害致死の認知件数が戦後最低か否か」という問いには影響しないのですが、平成以降の空欄はまずい。そこで、傷害致死には未遂が含まれていない*3ことから、傷害致死による死亡者数で代用してみることにしました。
とりあえず、昭和63年〜平成12年の傷害致死認知件数と死亡者数は以下のようになっています(別に平成13年以降を加えてもいいのですが、メンドイので)。

年次 認知件数 死亡者数
昭63年 197 197
平01年 161 162
平02年 189 189
平03年 189 189
平04年 - 194
平05年 - 184
平06年 - 177
平07年 - 183
平08年 - 181
平09年 180 180
平10年 187 188
平11年 199 201
平12年 180 181

(昭和63年〜平成3年、平成9年〜平成12年という短い期間ではありますが)ここでは「傷害致死認知件数(+0〜+2)=傷害致死死亡者数」となっているので、便宜的に平成4年〜平成8年において「傷害致死認知件数(+2)=傷害致死死亡者数」であったとします。すると、平成以降の「殺人、強盗致死(強盗殺人)、傷害致死の認知件数の合計」と「人口10万人あたりの比率(小数点第3位で四捨五入)」は以下のようになります。

年次 強盗致死 傷害致死 合計 比率
平01年 41 161 1510 1.23
平02年 23 189 1450 1.17
平03年 37 189 1441 1.16
平04年 48 (192) (1467) (1.18)
平05年 39 (182) (1444) (1.16)
平06年 42 (175) (1496) (1.19)
平07年 31 (181) (1493) (1.19)
平08年 39 (179) (1436) (1.14)
平09年 41 180 1503 1.19
平10年 78 187 1653 1.31
平11年 73 199 1537 1.21
平12年 71 180 1642 1.29
平13年 96 202 1638 1.29
平14年 93 193 1682 1.32
平15年 78 178 1708 1.34
平16年 89 145 1653 1.29
平17年 66 146 1604 1.26
平18年 52 144 1505 1.18
平19年 44 111 1354 1.06

平成4年〜平成8年における最低値は平成8年の1436(件)、1.14(件/10万人)であり、これは「戦後」という範囲においても同様です。そして、平成19年は1354(件)、1.06(件/10万人)。したがって平成19年は殺人事件認知件数のみならず、殺人事件認知件数に「傷害致死」「強盗致死(強盗殺人)」の認知件数を加えたものと、その人口10万人あたりの比率でも戦後最低であった、ということが推測できます。


次に、死亡者数についてはどうでしょうか。
管賀江留郎さんは殺された人の数 : 少年犯罪データベースドアにて

もろもろ含めた他殺で実際に殺されてしまった人の数は厚生労働省の「人口動態統計」の死因統計で判ります。

と仰っていますが、厚生労働省:人口動態調査に「集計客体 : 日本における日本人」とあるように人口動態統計は基本的に「国内の日本人」を対象にしたものなので、死因「他殺」の数値では「日本人の『他殺』による死亡者」しかわかりません。たとえば自殺者数の統計なら、警察庁統計と人口動態統計との違いは以下のようになっています。

自殺の経済社会的要因に関する調査研究報告書(本文1)

やはり警察庁などの各年の統計を虱潰しに見ていくしかなさそうと思い、殺人、強盗、傷害による「全国の死亡者」を調べてみた結果がこれだよ!

これを見る限り、すくなくとも昭和61年〜平成19年(というかそれしか見当たらなかったのですが)においては、死亡者数、比率ともに平成19年が最低であることがわかります。また昭和60年以前の認知件数を考慮すれば、死亡者数がそれ以降の年を下回っているとは考えがたい。よって、殺人、強盗、傷害による死亡者数(の合計)とその人口10万人あたりの比率も平成19年が戦後最低であったといえるのではないでしょうか。


とはいえ、僕は法学部生とかじゃないので、細かいところはどうなっているのかよくわかりません。間違いがあったらぜひご指摘お願いします。
(2009.2.6 死亡者数のグラフを訂正)

*1:ただし、総務省統計局の全国推定人口より「10月1日現在推定人口(総人口)」を用いて独自に算出したもの

*2:国会図書館に通ったり警察庁に直接問い合わせたりするほどの熱意がないので、とりあえずネットで調べられるものから調べています

*3:ちなみに殺人事件認知件数には殺人罪、自殺関与・同意殺人罪およびそれらの未遂と殺人予備罪が含まれ、強盗致死(強盗殺人)の認知件数にも未遂が含まれる